夏の終わりにげんべいのビーチサンダルについて語ろう。
葉山にあるげんべい商店は1955年に日本で初めてビーチサンダルを販売したお店であり、今もなお湘南のビーサンと言えばげんべいと言われるぐらいのビーサン界のオーソリティーだ。
今はビーサンの有名ブランドになって、Tシャツやバッグなどいろんなアイテムが発売されているが何と言っても定番はビーチサンダルである。
最も特徴的なことは厳選された素材のおかげで耐久性が高く、何年も履き込んで自分の足にフィットさせる楽しみがあることだ。
安物のビーサンは長く履いている途中で鼻緒が切れたり抜けたり、柔らかすぎて摩耗が早かったり、フニャフニャになって使い物にならなくなる。
げんべいのビーサンは素材がしっかりしているため耐久性が高い。
何年も履き続けることで、ソールが自分の足の形に凹み、自分だけにフィットする最高の1足に育てることができる。
履き込んで自分の足に合ったビーサンはそれで歩くことだけで心地よく、独特の解放感を味わえる。
今回は、履き込んだげんべいのビーサンがなぜにここまで気持ち良いのかじっくり考察してみたいと思う。
まずは、私が現在所有するげんべいのビーサンの紹介をしたい。
私は4足のげんべいのビーサンを所有しており、全て鼻緒とソールが白である。
白いスニーカーのようなものでどんな服にも合わせやすい。
1足はディンギーの船置き場に置いてあるので家にあるのは3足だ。
その中で1番古いのがこれだ。
げんべいのビーサンには昔からあるブルーダイヤモデルと2003年にげんべい4代目の葉山國光さんが開発した國光モデルがある。
この1番古いものはブルーダイヤモデルで、もう5年以上履いており「育ちきった」最高の心地よさを提供してくれる個体だ。
他の2足もあるが、出かける時はついついこの個体を選んでしまう。便宜上、1号と呼ぼう。
2番目に履き込んでいるのがこれだ。
同じくブルーダイヤモデルで、3年ぐらい履いていると思う。
ついつい1号を選んでしまうところを、1号に何かがあった時のことを考え、目下育成に力を入れている。
便宜上2号と呼ぼう。
そして最も履き込まれていないのがこれだ。
これは國光モデルで他のモデルより少し幅が広く、色合いも少しクリーム色になっている。
便宜上3号と呼ぼう。
実は2号と3号は同時に購入している。
購入した当時は全く同じ白い色だったが履き込んでみると色が異なってきたのだ。理由はわからないが素材の違いによるものなのかもしれない。
ここでブルーダイヤモデルと國光モデルの違いを見てみよう。
まずソールの幅の広さが違う。
合わせて比べてみるとよくわかる。後ろ側にあるのが國光モデルで、場所によっては最大4ミリ程度幅が広い。
次にソールの波模様の細かさが違う。
下の図は右がブルーダイヤモデル、左が國光モデルである。
國光モデルの方がより波目模様が細かくなっている。
そして大きな違いは鼻緒の位置である。
下の図は右がブルーダイヤモデル、左が國光モデルである。
國光モデルの方がつま先の長さが長い。
以上は新品をぱっと見たときにはなかなかわからないが、決定的に違う部分が1つある。
接地面の模様だ。
上の図は、右がブルーダイヤモデル、左が國光モデルだ。
ブルーダイヤはその名の通り菱形の模様、國光モデルは波のような模様になっている。
では、履き込んだげんべいのビーサンがなぜにここまで心地よいのか検証しよう。
履きながら、歩きながら、そして手にとって熟考したところ、7つの要因があることがわかった。
早速紹介しよう。
■心地良さの要因1 ソールがへこんで足の形にフィットする
言わずと知れた心地よさの要因である。
下が最も履き込んだ1号の写真である。
自分の足の裏で荷重がかかる部分が凹んで自分の足の形にフィットしてくる。
履き始めは平板のソールが、履き込むと何か僅かに包まれるような感じになってくるのである。
■心地良さの要因2 鼻緒の締め付けが緩くなる
要因1に付随することであるが、足の指及びそのつけ根の膨らんでいる部分のソールが凹むことにより、履き初めはキツめだった鼻緒が適度な締め付けになり、そのうちさらに緩くなってくる。
その緩みがルーズなフィット感を演出し、より自由で開放的なフィーリングを演出してくれるのである。
■心地良さの要因3 ソールの接地面が歩きやすい形状に削れる
下の写真は1号・2号・3号のつま先部分である。
1号のつま先↓
究極的に薄くなっている。
履き始めの時、荒れた舗装路などではつま先が突っかかることがあるが、ここまで削れるとあまり足を上げなくてもスムーズに歩行ができる。歩き方もルーズにできるのである。
2号のつま先↓
削れてきてはいるがまだまだである。
3号のつま先↓
これもまだまだだ。
またかかともその人のくせに合わせた形に削れてくる。
下は1号の踵部分だ。
私は靴の踵の外側が削れる歩き方になっている。
当然ビーサンもそのように削れるわけだがそのことにより、歩く時、足の接地時から足上げ移る時の追従性が上がり、より軽快な歩行感になるのである。
■心地良さの要因4 肌に触れる部分が滑らかになる
履き込むことにより、ソール表面の波模様が削れツルツルになってくる。
下は1号の写真だが、指の部分、指の付け根あたりが削れて滑らかになっているのがわかる。
下は鼻緒部分のげんべいのロゴであるが摩耗により薄くなってきている。
履き始めは鼻緒部分が靴擦れ(鼻緒擦れ?)を起こすこともあるが、履き込むことで肌で鼻緒が磨かれツルツルになることで擦れ起こることがほぼなくなってくる。
足を組んで座って、ビーサンをワパワパした時のその滑らかな心地はこれまでの育成の成果を実感させてくれるのである。
■心地良さの要因5 柔らかくなる
げんべいのビーサンは履き始めは、えっ?と思うぐらい固く感じることがある。
密度の濃い、しっかりとした素材を使っているからだ。
しかし履き続けていると次第にソールが柔らかくなってくる。
踏まれて踏まれて柔らかくなるのである。
人間も人生も同じである。
踏まれて踏まれて柔らかくなるのである。
■心地良さの要因6 軽くなる
まず、それぞれの重さを見てみよう。
まず最も履き込んでいない3号は、両足284グラムもある。
國光モデルのためそもそもブルーダイヤモデルよりも重いのかもしれないが。
続いて2号は、
両足222グラムであった。
そして、1号。
なんと、両足175グラムである。
3号とはその差、両足109グラム、片足で54.5グラムも違ってくる。
この軽さにより、歩行時の足上げが非常に軽く、またソール面が踵に当たる時(ビーサン特有のペタン、ペタンという音が鳴る時)の跳ねっ返りがソフトになる。
■心地良さの要因7 素足に近い歩行感
これまでの要因全ての帰結として、素足に近い歩行感を味わえるのである。
薄いソールは路面の状態を足裏に対して饒舌に伝えてくれる。
アスファルト、砂利道、砂浜それぞれの歩き心地を足の裏で感じとることができる。
つまり同じ場所、同じ距離を歩いてもインフォメーションがより多くなるのである。
またつま先が薄くなると、時として足の親指が路面に直接触れることもある。
思いがけない灼熱のアスファルトの感触、砂利の痛さなど、はっとさせられる偶然の瞬間に、何か懐かしいような、そして、今生きている実感のようなものを感じさせてくれるのである。
以上7つの要因は集約すると、形状、表面、柔らかさ、軽さが育成により変化するということである。
このように変動要素が多い履物は他にはないのではないだろうか?
1000円もしないげんべいのビーサンは、大切にそれを育てることができるならば、かようにも素晴らしい体験をオーナーにもたらしてくれる。
この素朴で素晴らしいアイテムを守り続け、提供し続けてくれることを願ってやまない。